「鳩の雛がね」と、
隣りのばぁちゃんが言います。
自宅療養中のばぁちゃんにとって
鳩の雛の鑑札が一番楽しみ、
日課に成ってます。
「今日はね、雛が枝を一段降りてたよ」
と、言ってます。
「そろそろ巣立ちだね」
隣りの家の屋根から親鳩が見守って、
雛の飛ぶのを待ってます。
でも二羽の雛は、まだ飛ぶのがこわいのでしょうか?
暫くすると、ひょこひょこと巣に戻って行ったのです。
「今日の巣立ちは無いね」
ばぁちゃんの為にも無事の巣立ちを願います。
「鳩の雛がね」と、
隣りのばぁちゃんが言います。
自宅療養中のばぁちゃんにとって
鳩の雛の鑑札が一番楽しみ、
日課に成ってます。
「今日はね、雛が枝を一段降りてたよ」
と、言ってます。
「そろそろ巣立ちだね」
隣りの家の屋根から親鳩が見守って、
雛の飛ぶのを待ってます。
でも二羽の雛は、まだ飛ぶのがこわいのでしょうか?
暫くすると、ひょこひょこと巣に戻って行ったのです。
「今日の巣立ちは無いね」
ばぁちゃんの為にも無事の巣立ちを願います。
「以前、シェパードを飼っていたんだ」と、
避暑地のベンチで話し掛けられます。
「おとなしいワンちゃんだな」と、
冷たい床にのんびり寝そべって、
居心地の良い避暑地の一時を満喫している
トレイス君を見て言います。
とても犬が好きそうで、
トレイス君も直ぐ馴染みます。
その人は10年ぐらい前に奥さんを亡くし、
一人暮らしではないのですが、
息子さんのお嫁さんと合わないので、
食事は弁当やスーパーの食堂で済ませているそうです。
今夜の分は「もう食べた」と、言ってます。
「えっ!まだ5時前ですよ」
秋の避暑地のベンチは淋しい男の吹き溜まり!
何度か避暑地のベンチで
そのおっちゃんに出くわしていると
トレイス君はすっかりお気に入り、
見つけると飛んで行って、膝の間に座り込んで
孫でも有るかの様な顔をして甘えています。
まだまだ午後は暑いです。
トレイス君と避暑地へ行きます。
避暑地までは歩いて3分です。
余りに近いので遠回りしていきます。
少し遠いコースは
昔からの村落の家並みを
くねくね曲がって行きます。
午後4時を過ぎると、路地は
家々の影が伸びて、日陰を作っています。
トレイス君も楽ですね。
普段のコースは
避暑地の周りをグルーっと回って行きます。
けや木の並木が風を呼んでいます。
余りに暑い時や雨の日は
スーパーの中を抜けて行きます。
冷房が効いていて涼しいです。
2階に上ると人も居ないので悠々歩けます。
本館、新館と廻っていきます。
我らの避暑地は新館のロビーです。
そうです避暑地はスーパーです。
冷房が程よく効いていて
柱を取り囲む様に丸いベンチが在って、
横には自動販売機やトイレも在ります。
でも其処は人の出入りが少なく
通りの緑も見渡せて
誰にも邪魔されずのんびりです。
西日のきつい夕刻を、
我らは暫く其処に滞在です。
トレイス君は冷たい床に
腹や胸、顎までペッ足りつけて
涼みます。
今日も瀬戸内はむしむししています。
あっ!これから避暑地に向かいます。
じゃあね!
「失明するかも知れないよ」と、医者に言われ
「それならば」と、世界を見る旅を思いたって、
出発の前日です。
母は僕の好物のおはぎをこさえてくれます。
母は不器用です。
母の作るおはぎは大きさが不ぞろいです。
お鏡の様なのもあれば、
お団子の様なのも有ります。
それに餡子がはみ出て斑になってます。
まぶされている黄な粉もだまになっていて、
かなりしょっぱいです。
其れでも其れは美味しいです。
お米もふっくらして、餡子も歯ごたえが有ります。
一挙に3個食べ、そして2個食べ、
合せて五個も食べてしまいます。
昨年です。庭に萩の花が咲いて、満月の頃です。
隣りのばぁちゃんに頼みます。「おはぎつっくて」
「おはぎなんて簡単よ」と、ばぁちゃんが
言ったわりには、いつまで経っても作ってくれません。
五月蠅く言っていると、
ある日、「はい、おはぎ」と、渡されます。
なんと「ずるい」スーパーで買ってきた物です。
四角いプラスティックの重箱に入った
行儀の良いお萩です。
お米も餡子も柔かく、頼り無いです。
満月を見ると、母のお萩が食べたくなります。
もう、三十年も食べてませんが、
しょっぱい黄な粉の食べごたえのあるおはぎ。
忘れられず思い出します。
庭に萩の花も咲き始めます。
うーん 秋ですね。
おはぎが食べたくなります。
トレイス君の寝る前のオシッコの時
空を見上げると月が
南の中空で煌々と輝いています。
中秋の名月かな?と思いつつ見上げます。
視力の性でまん丸かどうか分りません。
ちらちら、ちらちらして二重三重に見えてます。
トレイス君を部屋に入れ、双眼鏡を持ってきます。
狭い視野の上に、拠り所のない夜空、
なかなか双眼鏡の中に月を捕らえる事が出来ません。
ちらっと見えては行方不明に成ります。
捕らえても、焦点を合せていると、月はにげてしいます。
やっと、要領を得て、焦点も合って、
しっかり見る事が出来ます。
まん丸の、綺麗な銀板です。
萩が咲いて、満月を見ると、
おはぎが無性に食べたくなります。ごっくん!
おこぜ(蛾の幼虫)が、庭の南京ハゼに
湧いてます。
「こりゃ!大変だ」と、駆除に掛かります。
あっちの枝に10匹、こっちの枝に10匹
かなりの数が居るようです。
「見えないから良いけど、見えると気持ち悪いよ」
と、駆除してくれたおっちゃんが言います。
それは其れで良いのですが、
好きな蜻蛉が飛んでいるのも見えません。
あっ!話しは逸れましたが、
これから紅葉の美しい南京ハゼが
丸坊主に成ってしまいました。
「おこぜも繁殖に必死だよ」と、おっちゃんは言います。
これから寒くなる秋に向けても子孫を絶やさぬように、
卵を産み、幼虫から蛹、蛾に成って繁殖活動、
子孫を絶やさぬ様、春にも秋にも
頑張っているのだそうです。
「そうですか」 努力は認めます。
僕は別に、少々、蚊が居ようが
蟻が居ようか、オコゼが居ようが良いのですが、
其方さんも共存共栄を考えてください、
美しい紅葉を食い尽くのはいけません。
「きょうは親鳩が来て嬉しそうだった」と、
隣りのばぁちゃんが
松の枝の野鳩の巣を、
窓から見ながら言ってます。
2羽の雛は元気に育っています。
普段はじーっとして黙っている雛も
親鳩が餌を持って来ると、
ピーピー鳴いて騒いでいるようです。
「可愛くって、つい見てしまうわ!」と、
ばぁちゃんは窓から顔を出して言ってます。
自宅療養中のばぁちゃんの
良い慰みに成ってます。
まだお爺ちゃんの居た頃です。
前庭の懸崖の松の枝に
寒く成りはじめた頃に
雛が生まれた事が有ります。
冷たい通り雨が降ったりします。
ひとり残された雛は、寒いのか?
寂しいのか?お腹がすいたのか?
ピーピー鳴いてます。
気に成るお爺ちゃんと僕は見上げます。
雛は危険と感じるのか?
くちばしをカチカチならして威嚇します。
「あんまし、見ない様にしよう」と、
お爺ちゃんと言い合いますが、
親鳩も来ず、風も出て氷雨がすばいます。
濡れそぼって振るえるのも可哀想!
心細く威嚇する姿も胸が迫ります。
雛に手を掛けると、親鳩が来なくなると言います。
でも、見かねて、ホッカイロを巣に敷いてあげます。
次の日には、もう巣には雛は居ません。
朝日が松葉の雨露を輝かせているだけです。
「巣立ったんだよ」と、お爺ちゃんは言います。
今、我が家の中庭の松の枝で子育てをしているのは
其の時、巣立った鳩でしょうか。