月別アーカイブ: 2010年8月

尋ねてみれば・・・

本当は今回の取材は、中村での眼科診察の後、
数年ぶりに会う此の町の友人Tさん宅に泊めてもらい、
カフェにモーニングを食べに行くところから始まります。
Tさんは親類の花作りを手伝いながら暮らしていると、
帰郷報告の手紙に書いてありました。
僕は此の町の事は何も知りません。
それで、田畑の広がる地域を想像します。
カフェへ向かう道です。
覆い茂った松林を貫けると、
驚きの景色、想像していなかった
雄大な海が広がっています。
暗く閉ざされ勝ちだった僕に、其の景色は、
明るく解放された夢を見させてくれるようになります。

Tさんとは都会時代からの友人です。
Tさんは十数年前、母親の老後を見るために、
故郷に家を建て帰ってきます。
同じ四国だから時々会えるかな!と、
言っていたのですが、なにぶんにも互いの地を

四国山脈に隔てられ、易々と会う事が出来ません。

数年前に母親を亡くし、
そして自らも癌に侵され亡くなります。
Tさんの家は、
町の外れで、明かりも点らず、
ぽつねんと佇むばかりです。
その光景は数年後の我が家かも知れません。
ディレクターさんに「素敵なお宅ですね」と、
言われた我が家も、数年後は住む人も無く
ひっそりと窓を閉ざして居るかも知れません。

ディレクターさんに無理を言って、Tさんのシーンは
外してもらいます。
侘しい現実は外してもらいます。
余生は俳句三昧をという生活を前に
逝ってしまったTさん、
静かにそっとしといてあげます。
Tさん安らかに。と、祈ります。
夕方、Tさんの妹さんがホテルに尋ねてくれます。
顔立ちこそ似ていませんが、Tさんと同じように
小柄で柔和な感じの妹さんです。
Tさん良かったな!こういう優しい妹さんが
近くに居てくれて良かったな!
僕は身内と言えば、姉が一人いるだけです。
姉は九つも年上です。

霧の海岸

ロケ撮影四日目の27日の昼です。
今日も僕らは休みです。
折角遠くまで来ているので、
清水の友人に遊びに来て貰います。
何処かでお昼をと思ったが、
やっぱり此の辺りにはレストランは無いですね。
とうとう四万十川まで行ってしまいます。
「おしゃれなお好み焼き屋を見つけたけど」と、
言ってますが、真夏にお好み焼きはちょっと、
トレ君も暑がって、可愛そうです。

こう暑いと、行くところが無いです。
海水浴場の海の家でのんびりします。
綺麗な海岸、夏休みです。でも人影はほんの数人です。
大きな建物に風が通って涼しいです。
かき氷を食べます。何とソーメン鉢に山盛りの
荒いかき氷に黒蜜が掛かっているだけのものです。
カフェなどのやわなかき氷を食べ染めている者には
ちょっとハードで、お腹ががぼがぼ言ってきます。

「向こうの海岸にクレーンで撮影してるよ」と、
清水の友人が言います。
えっ!僕らのロケ隊?まさかそこまで!
(夕食の時、其の話しをしたら、そうだよ我らだよ)と、
言います。
わー、それなら乗せてもらえば良かった!
上から暗い松林や続く海岸線を見たかったなぁ!
でも、今日の景色は白っぽいです。
真夏なのに冬の色調です。
僕の視力では霧のロンドン、摩周湖です。

海よ!ありがとうー

20100726062227.jpg

撮影四日目(27日)の朝です。
昨日より一時間遅れの、だいぶ明るくなって開始です。
やはり深い松林は暗く、闇です。
海に出ます。東に太陽は昇り、波頭を白く光らせていす。
波打ち際まで下りていきます。
腹の底に響くように、波はどーんと打ち寄せて、
ざーっと、崩れ落ちています。
音だけを聞いていると、頭から被るような
高い波に感じます。
砕けた波はさらさらと砂浜を走っては、
さぁーと引いていきます。
何処の海岸にも有る渚の光景です。

あの時、闇から解放された夢を見させてくれた海に
「ありがとう!」を、言います。
へこんでいた僕に元気をくれた海にお礼を言います。
残念ながら今日の海は、土用曇の下で重いです。
明るく輝く波は立っていません。風も静かです。
しかし、波音だけは強く鳴ってます。

数年後、再度、此の海を尋ねたいと思います。
其の時、僕は視力も含めてどんな状態でしょうか?
重い海からの波音が「がんばれよ!」と、
励ましてくれている父の声のようにも聞こえます。
インタビューが続きます。
だんだん話していると、
次に来た時は、何も見えない、失明しているかと思うと、
急に涙が溢れてきます。
次の旅は波音だけが頼りの旅かもしれません。
何としても、何としても失明したくない!と、
言いつつ泣いてしまいます。

インタビューでは絶対泣かないぞ、と、
心してたのです、が・・
海もどんどん白くガスっていきます。

感覚的似顔絵

自分の顔を、十数年見た事が無い!
鏡でも、写真でも見えない!と、言ったら
インタビューの前にカメラさんがモニターで
僕の顔を見せてくれます。 
あ!そうそう。以前JRPSの会で、NHKさんの
暗視カメラ体験をした事を思い出します。
真っ暗な部屋で、床に落ちている人形や、
壁に架かった絵が見えます。
期待を込めてモニターを覗き込みます。
なんだぁ がっかりです。ぼんやりです。
鏡を見た時と同じです。

それではスタッフの皆さんはどんな顔でしょうか?
・ディレクターさんは達磨大師だと言われてます。
えー、そうですか?
初めて会った時、白いオーバーシャツを
しゃきっと着こなした、(僕にはそれしか見えないが)
都会的ハンサムさんと、インプットしてしまったので、
弁慶のお父さんのような達磨さんとは結びつきません。

・照明さんはマイケルジャクソンかカールルイスの顔だと、
言ってますが、ブラック系の顔かな?
目の前に居るけど想像出来ません。
・音声さんは弥生人とか、百済仏と言われてます。
聖徳太子風だとか・?
一万円札!思わず手を合わせます。
でも、口髭のせいかな?とも言われてます。

「口ひげ生えてるの?」って聞くと、
全員生やしてるよ!と、言ってます。
三日間、真近で接していましたが、
皆さんの口髭、見えないです。気が着かなかったです。
ちょっと思ったが東南アジアの海の海賊集団?

もう一人忘れてます。
カメラさんはどんな顔です。
一番年長なので誰も何も言わないです。
顔の前にいつも大きなカメラが有るので、
僕にも解釈の取っ掛かりがないですね。

テレビに映る自分の顔は如何ですか?
自分では見え無いので責任も取れませんよ!

一瞬の天体ショー!

夕食を早目に食べて、夜のロケに出ます。
ホテルでパーティが有るとかで、
カレーライスしか作ってもらえませんです。
スタッフさん達は、ロケの後で、
町に繰り出すと、言ってます。
明日の朝も早朝ロケですよ!皆さん元気です。

今夜は十五夜です。
そろそろ月の出の時間です。
僕らは歩いて行きます。
トレ君と月夜の浜辺に散歩です。
波は朝と変わらず、どーん、ざ、ざ、ざ、ざぁーと
大きな音を立ててます。
学校から借りて来て発電機がたかれ、
ライトを照らしています。僕らは其処にしゃがみます。
浜辺で月の出を待つ!生まれて初めて、
ロマンティック気分でトレ君とデートです。
あっ!誰かが声を出します。
月が出たようです。東の水平線に上った?
目を凝らします。僕の目は探しきれません。
薄雲か喪やが有って、淡い色合いだそうです。
「オレンジ色だ!」と、言ってます。
ディレクターさんが、必死で僕の頭を抱えて
其処に僕の視点を合わせようとします。
あっ!其の時です。
右目下方に真ん丸い月が飛び込んできます。
(僕の右目下方は今一番視力の有る一点です)
赤い!不思議な色です。

僕は夜盲が強かったので、夜の外出は無いのです。
還暦を越えて、
初めて海からの月の出を見る事が出来ます。
それがまれに見る赤い月です。
赤い月は、一瞬色を濃くして輝きます。
だが暫くして雲に隠れてしまいます。
一瞬の天体ショーは終わります。

何とか成る!

日がかなり昇り、暑く成って来ます。
そろそろ、ホテルに帰りましょうか!
ホテルに帰って朝食です。
うーん、眠い!
夜中の二時頃からうろうろしていたので眠いです。
撮影隊さん達は出て行ったけど、
僕とトレ君は休憩を頂けます。
でも、お昼寝の前にTシャツの洗濯です。
明日の朝、
もう一度同じ衣装で海岸のシーンを撮影します。
Tシャツは汗でぴちゃりです。
トレ君は早くも夢の中です。

一眠りして、浅い眠りで居ると、
「お昼行きます!」と、ディレクターさんから電話です。
下に下りていくと、玄関の所、合流です。
国道を下って行きます。が、全然店が在りません。
やっているのか、居ないのか、
ぽっつんと一軒ラーメン屋が在ります。
味は如何かな?不安でしたが、腹も限界なので入ります。
天津飯を食べた照明さん、
「思いの他、美味しかった!」と、合格です。

午後も僕らは撮影休みです。
散歩にでもと思ったが、高知はやっぱり南国です。
日差しのきつさは半端でありません。すぐ退散です。
またまた午後も部屋でごろごろです。
それでも余りに退屈なので夕方散歩に出ます。
「えー、海どっち?」 此処まで波の音は聞こえません。
丁度、駐車場に車が入って来たので、道を聞きます。
其の人、余所見をしているトレ君に、「君、大丈夫!」と、
言ってます。トレ君は何とか成るさ!って、
顔をしています。

闇の恐怖から脱出した夢

八年前、此の海に見てから
よく夢を見ます。
風が吹き渡り、草木がそよぎ、波しぶきが飛び
明るく爽やかな夢です。
夢の中では視力障害も無く、
夜盲の闇の恐怖からも解放されています。
暗いおどおどしい松林を通り抜け、
光に満ちた海岸で僕にもたらされた、
純化された僕の夢です。

何事も夢と現実は違います。
朝日が昇ると海の様子が見えてきます。
激しい波音に反して、沖は湖面ように静かです。
この心を突き上げるような音は何処から起こるのでしょう?
渚を歩くシーンなども撮影して、僕のカットは終わりです。

うす曇の海辺の朝六時は涼しいです。
カメラさんがバッグを砂浜に敷いてくれます。
ではと、腰を下ろし、
用意して来たフードをトレ君に上げます。
トレ君と朝ピクニックです。
カメラさんたちはいろいろショットの撮影です。
海亀の産卵を監視している小父さんが通ります。
此の海岸は四キロ続くのだそうです。
そして海亀が産卵に上がってきます。
往復で毎日八キロ。わーっ!砂浜は歩き辛いし、
夏は暑いし、ご苦労です。

闇の恐怖から救ってくれた海は・・・

「もう少し前に行ってください!」と、
後からディレクターさんの指示です。
如何言う地形で、
今、自分が置かれている場所が分からない。
動くのが怖いです。
どーんと地鳴りを立てて波は押し寄せ、
ざ、ざ、ざ、ざぁ、ざーーっと、長々と音を立てながら波は崩れていきます。
物凄く高い大きな波に取り囲まれているような気がします。

トレ君は其の音に怯えています。
怒涛のように押し寄せる波に、心臓がばくばく言ってます。
東の空に朝日が差し始めています。
此の激しい波の音に反して、朝日の当たる海は
穏やかに凪いで、波頭も無く、白く鈍く輝いてます。

インタビューが始まります。
しかし、八年前の冬晴れの日に見た海の印象と、
土用曇の海の印象が余りにも違いすぎです。
しどろもどろして、旨く答えられません。
焦ると言葉も出てきません。
つじつまを合わせる為に嘘を言ってるようで・・