大根を鉛筆を削るようにして、
其れを貝とか肉とかで炒めます。
我が地元では、大根の柔らかな冬の料理で、
「ぬくめ合い」と、言います。
母が逝って、父と二人きりに成った三十年前は
まだ行商のオバサンが自転車の荷台に
トロ箱を三段ぐらい積んで、
魚介類を売りに来てたのです。
行商のオバサンハは心得ていて、
其の家に合うようような物を見繕ってくれるのです。
「鳥貝あるよ」と、オバサンガ言います
父は鳥貝が有ると、必ず買います。
鳥貝は貝殻から取り出した剥き身に成っていて
其れが鶏の鶏冠に似ています。だからと鳥貝?
僕が夕方 仕事から帰って来ると、
台所の流しに、畑から引いて来たばかりの
大根が一本、綺麗に洗われて置いて有ります。
「今夜は、ぬくめあいだ!」と、僕は思います。
やっぱりです。冷蔵庫に鳥貝が入ってます!
大根を十字に切り目を入れ、削り始めます。
鉛筆を削るように、くるくる回して削っていきます。
冬の大根は柔らかくって、さくさく削れます。
ボールいっぱいに成ります。でも、もう少し削ります。
ボールに山盛り削ります。
食べきれないほど無いと駄目なんです。
フライパンを温め、少し油を敷いて、先ず鳥貝からです
そして、どんどん削った大根を入れていきます。
水分の多い大根です。台所が湯気でもうもうです。
大根がしんなり落ち着いてくると、
砂糖、醤油と味をつけていきます。
酒や味醂をいれたりもします。
甘辛い匂いが台所に充満です。
大根が良い醤油色に成ったら食べ始めます。
大根と鳥貝がぬくもり合ってます。
まだ畑仕事をしていた父は、物凄い勢いでたべます。
口の中に残っているのに、お箸が
次の大根を掴んでいます。
「すき焼きより 旨い」と、言います。
今夜は此のメニューだけですが満腹です。
山盛り作ったので、フライパンに残ります。
次の日、其れを卵とじにして、ご飯に掛け、
大根丼です。煮汁もいっぱいで、寒い朝、
腹の中から温まります。
最後に余った分は愛犬ダン吉のご飯に成ります。
ダン吉も父に負けないほど、がっがっが、と
勢い良く、とても美味しそうに食べます。
ダン吉もぬくもります。
鳥貝の無い時は、アサリの時も肉の時も有ります。
でも肉より、やっぱり貝類です。
父が逝って、もうこんなダイナミックな料理も
しなくなりました。