お盆かえり!‐2

 僕は未熟児で生まれ、ひ弱な体質だったので、
「此の山道を歩かせていると、もう来ないと、言い出すのでは?」と、父の里の父の両親であるお祖父ちゃんやお祖母ちゃんが、僕を背負う為に、其のバス停まで下りて来てくれるのです。まだまだ一般家庭には電話の引かれていない時代でしたから、連絡は取れません。何度でもバスの到着時間に下りて来てくれていたようです。
 僕が物心着く頃は、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも死んでしまっていたので、暖かな背中の記憶も何も思い出せません。
 
 父の里に着くと、谷から引かれた冷たい水が勢い良く落ちている水槽の所で、皆で汗ばんだ顔を洗い、水を飲みます。
水槽には、僕の為に取って置きの大きなスイか、それにトマト、キュウリがぷかぷかと浮かんでいます。
 水槽から溢れた水は、畳二枚ほどの堀に流れ落ちています。其の堀には様々の模様の錦鯉や小さな魚が泳いでいます。叔母さんは其の堀で食器などの荒い物をするのです。鯉は其のご飯粒を餌に良く太っています。

庭には何羽かの鶏が放し飼いにされ、撒かれた餌や叩いた貝殻を長閑に啄ばんでいます。木陰では猫や犬が番をしているかの様に広庭を時折、薄目を開けて眺めつつ寝そべって居ます。牛小屋では黒い牛が尻尾でぱたぱたと蝿を追いまわす音がしています。 母屋の其の隣りに納屋が在って、其の先が一段低くなり、様々の果樹が植えられています。 崖にそって小屋が建て掛けられ、山羊と豚が居ます。 其の果樹園の外れには谷川が流れ、小さな水車小屋が作られて、米や小麦が突かれています。つづく