「失明するかも知れないよ」と、医者に言われ
「それならば」と、世界を見る旅を思いたって、
出発の前日です。
母は僕の好物のおはぎをこさえてくれます。
母は不器用です。
母の作るおはぎは大きさが不ぞろいです。
お鏡の様なのもあれば、
お団子の様なのも有ります。
それに餡子がはみ出て斑になってます。
まぶされている黄な粉もだまになっていて、
かなりしょっぱいです。
其れでも其れは美味しいです。
お米もふっくらして、餡子も歯ごたえが有ります。
一挙に3個食べ、そして2個食べ、
合せて五個も食べてしまいます。
昨年です。庭に萩の花が咲いて、満月の頃です。
隣りのばぁちゃんに頼みます。「おはぎつっくて」
「おはぎなんて簡単よ」と、ばぁちゃんが
言ったわりには、いつまで経っても作ってくれません。
五月蠅く言っていると、
ある日、「はい、おはぎ」と、渡されます。
なんと「ずるい」スーパーで買ってきた物です。
四角いプラスティックの重箱に入った
行儀の良いお萩です。
お米も餡子も柔かく、頼り無いです。
満月を見ると、母のお萩が食べたくなります。
もう、三十年も食べてませんが、
しょっぱい黄な粉の食べごたえのあるおはぎ。
忘れられず思い出します。