トントンとドアが叩かれ、今度は間違いなく夕食の時間です。
前の部屋の彼女たちに誘われて出掛けます。
落ち着いて五階のエレベーターホールを見ると、
ホールは有りません。
階段の踊り場のような、
ちょっとしたスペースが在るだけです。
でも僕らは、暗い壁はどんなイメージも描けてしまいます。
一階のロビーには
粗方ツアーメンバーさんは集まっているようです。
「車椅子かんが調子悪いので気を使いなさいよ」と、
盲導犬ユーザーHSが何処からか現れて言います。
「大丈夫、添乗員さんと行くから」と、応えると。
「一人で歩けないの」と、軽蔑したように言います。
かっちんと来る言い方だったので、
「あぁ、駄目だね。足も捻挫してるし、古傷も痛いし」と、
言ってやります。
ユーザーHSは、ふん!という感じに
黙って向こうへ行きます。うっとうしい女です。
足の捻挫は大した事は無いのですが、
二ヶ月前に折れた右手首や肋骨が、
疲労と寒さで、昨夜からきりきり痛みます。
僕はトレイス君と夜道でも、何処でも歩けます。
でもトレイス君は目的の方向は分りません。
足の長いトレイス君のペースで歩いていると、
皆さんよりどんどん先に行ってしまいます。
すると添乗員さんが我らを
追いかけて来なければなりません。
それだと同時に面倒を見ている、目の悪いご夫婦と
車椅子さんを置いてきぼりにしてしまいます。
O女史ファミリーは、非難や命令はします。
でも決して提案はしません。
例えば「今夜は車椅子さんが疲れているから
私達と行きましょう」とは、言わないのです。
今夜のお別れパーティーのレストランまでは歩いて
十五分ぐらい掛かるそうです。
添乗員さんがやって来て、車椅子さんも探しています。
「駄目ですよ!今夜は、僕は車椅子さんとは行きませんよ」
「車椅子さんも疲れて、自分の事でいっぱいいっぱい
だと思いますよ」と、言って、
車椅子さんに着いて行くのを断ります。
もし、其の事でO女史が何か言って来たら、
「今夜のパーティーには出ない」と、言うつもりです。
腹は減っているけど意地です。
添乗員さんは黙って僕の横に付いて歩き始めます。
外は雪です。プラハに寒波が押し寄せてます。