8‐ロケの旅 赤い満月
僕は幼い頃から視力が弱かったので、
星空は見た事ありません。
真っ暗な広い空に見えるのは月だけです。
そんな僕を思ってか、ロマンティックなディレクターさん
今回のロケに月夜の海岸の散歩を加えてくれてます。
七月二十六日、月曜日は真に満月です。
スタッフさん達は、夜の海岸で
僕とトレ君を照らすために
砂の中に発電機まで仕掛けてくれてます。
夜の海は幻想的です。
波音が昼間より長く響いてムードを高めます。
あー其れなのに、若い人が向こうで騒いでます。
スタッフさんが「撮影中だから」と、黙らせます。
息を呑んで月の出を待ちます。
今夜は空が黒い雲に覆われているようです。
「中空に星が一個瞬いているだけだな!」と、
ディレクターさんが言います。
昨夜はあんなに綺麗な十四夜でした。
「あ!出た」と、誰かが小さく叫びます。
「オレンジ色だ!」と、言ってます。
色が淡いせいか、視点の方向が違うのか、
まだ僕の目には映りません。
ディレクターさんが僕の頭を抱え、
手を差し伸べて、月の方向を定めてくれます。
あっ!見えます。赤い月です。
朝日と同じ水平線から月が昇っていきます。
人生六十数年にして、初めて、
海岸で月の出を見ました。
また、それが思いもよらぬ赤い月です。
今回のロケで心に残る光景です。
ー残念ながら編集でこのシーンはカットだそうですー